月夜見 
“幸せの赤いこよりと 白い○○○○vv”

      *TVスペシャル、グランド・ジパング ルフィ親分シリーズより
  


季節は晩秋。
晴れの日も多く、実りの声があちこちから聞かれる、正にいい時分である。
もうちょっとすると年末に向けて、世間様は大きく傾いての、
どっちを向いても、やれ年越しだ、やれ掛け取りだと、
金持ちも貧乏人も皆 慌ただしくもなるのだろうが、
そんなこんなに駆け出す直前の、ちょっぴりお暢気な季節。
山々を飾る木々の彩り、赤や黄色の紅葉の錦が、
素っ気ない秋の空にいや映えるのを遠目に望んで、

 “時間は書いてなかったってのが難点だったよな。”

はぁあと内心で溜息ついてるお人がいる。
いちいち確かめたりはしないが、
その懐ろの中には小さな紙の切れっ端が仕舞われており、
赤い和紙の、元はこよりだった代物で。
しかもその裏には小さな筆書き、あんまり上手とは言えない筆跡で、
彼へ向けての伝言がしたためてあったりもしたそうで。
それによれば、下町に差しかかるところの地蔵橋で待つとのことだったが、
実際に待っているのはこちらの彼の方だってのがまた穿っている。

 “今日の昼過ぎってのも、曖昧が過ぎてどうかと思うぞ。”

第一、手紙代わりにすんなってさりげなく言っといたのによ。
誰ぞが盗み見たらどうすんだ。
誰かは知らんが其処に来る奴がいるんだ、
こりゃあ逢い引きの合図っぽいから、
もしかして付き合いを禁じられてる大店のお嬢様とかが
出入りの若いのとの出合いを約束してのもんかも知んねぇ、
横車入れてやっての脅して金にするべぇなんてな
勝手な想像から待ち受けるような、
すけべぇで悪どい奴が出たらどうすんだ。
それでなくともお前ぇさんは、
どうもこう、妙に放っておけないってのか。
いや、頼もしいって評判は山と聞くけどよ。
そんでも…いつまでも子供みてぇな顔してっし小柄だし、
物の言いようも考えようも、
そのゴムゴムの力で飛んでく時みてぇに
いつまでもどこまでも真っ直ぐが過ぎるしよ。
ちょっと強かな奴だったなら、
演技と口八丁繰り出しゃあ、ひょいって軽々、足元を掬えるっての。

 「あ、いたいた、坊さ…じゃね、ゾロっ。」

独りで悶々と考え込むうち、
想いが悪い方へ悪い方へと傾きかかってたのさえ押さえ込み、
仏頂面のままで橋のたもとに突っ立っていたお坊様。
ついでに…そのお顔がいかにも苦行を積んで刻まれたものと解釈されたか、
お布施も結構、托鉢の鉢や袋に集まっていたところの、
まんじゅう笠に墨染めの僧衣という雲水姿のお坊様へ目がけ。
たったか軽やかに駆け寄ったのが、
こちらさんは格子柄の着物を尻っぱしょりにしての藍色股引という軽快な恰好、
まだまだお若いがこれでも町の治安を預かる岡っ引きの親分さんで。
本人のお名前は“ルフィ”というのだが、
いつも背中に下げてる麦ワラ帽子から、麦ワラの親分というのが通り名だとか。
これでも大急ぎで来たらしく、お膝に手をつくと肩で息をし、

 「すまねぇ。ゲンゾウの旦那からちょっと話ィ聞かされててさ。」
 「はは〜ん。また何かドジやったな?」

特別な千里眼だの推理だのを持って来なくとも、
この親分の、お元気が余っての暴走はいつものこと。
手甲を巻いた武骨な手で、
あちこち擦り切れたまんじゅう笠の縁をちょいと上げながら。
くすすと精悍に笑って見せたお坊様からのご指摘へ、

 「ち、違わいっ!////////

途端に真っ赤になった親分さん。
お務めの上での失敗は、ここんとこ一個もないやいと、
ムキになっての怒り出すものだから、

 「ああ、すまねぇ。ついつい勝手なことを言っちまったな。」

許しとくれなと更に笑って口角を上げる。
見様によっちゃあ、鋭角が増しての凶悪なお顔になるってのに、

 「〜〜〜判った、許してやらぁ。////////

ちょっとだけ見惚れたのも癪だぜ畜生と、
ますます真っ赤になってる親分だったりするところが相変わらず。
まま、確かにこのお坊様、男ぶりはすこぶるつきに良い。
あちこちぼろぼろの僧衣をごちゃごちゃまとっているから、
ちょいと見には判りにくいことだが。
これで結構 屈強精悍、
胸板は厚いし、二の腕や腰や腹は堅くて強いし、
何と言っても顔立ちがきりりと冴えての男前なので、
野生味あふれる笑顔が良いとか、
チンピラ相手に不敵そうな顔になっての凄む時の頼もしさが良いとか、
妙齢のご婦人たちからこっそり騒がれてもおいでだったりし。
………良いのか、隠密なのに目立ってて。
(苦笑)

 “そうなんだよな。”

え? えええ? なんですて?

 “この坊さん、正体不明つか、神出鬼没なんだよな、相変わらず。”

あ、ああ。そうかそっちね。あ〜びっくりした。
親分さんには相変わらず、真の正体は判らぬお坊様でもあって。
夜中に張り込んでたりすると、どっからか不意に現れて、

 『おや、お役目ご苦労さんです。』

そんな言って熱っつあつの肉まんをくれたりもする。
悪党を追ってて、何でだか逆に取り囲まれたりしていると、
必ず飛び込んで来ての加勢をしてくれる。

 “坊さんて、24時間営業なんだろか。”

………う〜んん。
(苦笑)
救急病院とそれから、教会なんかはそうだって言いますけれどもね。
礼拝堂はいつも開いてて当たり前ってのが、一応の基本だそうで。
でも、今時は物騒だからと扉閉めちゃってる。
いやな世の中になりましたねぇ。

 「で? 何か用があったんじゃないのかい?」

ただ単に“逢いかったから”というお呼び出しもなくはないし、
それだとて、別段構いはしない坊様で。
陰のお仕事での行動はおおむね夜中に駆け回ることが多いので、
昼の間は大概その身も空いている。
だが、今回のこよりには、中途半端ながらも伝言がついていたから、
余程のこと、逢って伝えたいことがあったに違いないと察したゾロだったのだが。

 「凄げぇな、何で判るんだ?」

わくわくっと大きな瞳を瞬かせた親分さん。
まるで仔犬がご主人の手に握られたボールにわくわくと躍り上がってるかのように、
そりゃあ無邪気なお顔になったものだから、

 “…こらこら。
  そんな顔、軽々しくも晒してんじゃねっての。////////

おおお、何でしょうかそんな、照れ隠しみたいなぶっきらぼうさは。
…と、お調子に乗っての からかってばかりでは話が進まない。
ちょいと小首を傾げて“さてな”と笑ったお坊様へ、
小さな親分さん、自分の懐ろから風呂敷にくるまれた包みを取り出した。
カマボコ2つ分ほどの、さして大きくはない代物だったが、

 「あの、さ。坊さ…ゾロって、この月に生まれたって言ってたろ?」
 「言ったかな?」

言いました。
親分さんの誕生日が端午の節句だって話したときに、うっかりと。

 「あんなあんな、俺、いっつもお世話になってるからさ。
  何かお返しがしたくってさ。////////

お返しと言いつつ、何でか真っ赤になってるルフィなのが、
いかに…単なるご挨拶とか儀礼的なものじゃあないかを物語ってもいるような。
借りを作るばっかじゃいやだとか、そんな手合いのものであったならば、
間違ったって、
相手の目も見ぬままに視線を泳がせたりするような、
そんな尻腰のない彼じゃあないのは、それこそ承知のお坊様。

 「そりゃあ…却って気を遣わせちまったかな。」

もともと教えるつもりなんてなかったことだのにと、
自分の迂闊さにも少々鼻白らむゾロだったりし。
何たって本職は、幕府だか公儀だかの隠密で。
自分の素性や行動を、容易く他人へ明かしてはならぬはず。
だってのに、どうしてか、ついうっかりと口を衝いての出ていた一言が、

 『じゃあ俺とは半年違う訳だ。』

迂闊というか油断しまくりというか。
まま、生まれ月くらいは問題ないかと、
すぐにも頭から追い払っての忘れていたのにね。
親分さんの方ではずっとずっと覚えててくれて、

 「坊さんにお守りってのも妙なもんだし、
  かと言って、俺って金もなきゃ手先が器用でもないしでさ。」

酒かなとも思ったけど、
いつ会えるか判んねぇし、出先で渡しちゃ荷物になるだろし。
そんなこんなで何にしようか、ちょっち困ったのだけど。
そう言いつつ差し出された包みは、柔らかくて軽い。

 「???」

何だろか、全く予想がつかなくて。
会釈を送ってから大きな手の中で包みを解けば、
中に入っていたのは白い和紙でくるまれた、また包み。
それはどうやら布製品らしく、

 「…あ。これって。」
 「おお、ふんどしだっ。」

笑ってはいけない、お客さん。
(爆笑)←こらこら
実を言うと男性下着のふんどしは、
日本では江戸時代になってやっと民間にも普及しだした代物で、
初期のころは履いてない人も珍しくはなかった。
着物の後ろの裾をめくって帯に挟む“尻っぱしょり”は、
いかにも庶民がやるよな、行儀の悪い姿だと思われがちだが さにあらん。
ふんどしを履いているからこそ出来る恰好でもあって。
よって、町人や職人が尻っぱしょりをするというのは、
動きやすいからってだけじゃあなく、
粋でいなせ、おしゃれだってことの象徴でもあったのだ。
(ま、職人さんには足全部を覆う“股引き”ってのもありましたが。)
そして、これも冗談抜きに、
市中には“貸しふんどし屋”というのもあったそうで。
独り者が毎日洗濯するってのも面倒だが、
されど、綺麗なのを履いてないとカッコがつかぬ。
そこで頭のいいのが思いついたのがこの商売で、
履いて汚れたらそれを返してまた新しいのを借りる。
店は店で、まとめ洗いをすりゃあいいのだから、
1枚ずつちまちま洗うより効率もよくて経費も少なくて済むということで、
ちゃんと生活に必須の商いとして成り立っていたそうな。

 「嵩張るもんじゃなし、沢山あっても毎日使うもんだ、困りはしねぇだろ?」

にっぱし笑った親分さんに、坊様もくすすと笑ってああそうだなと相槌を打つ。

 「ナミに教
おすわって、頑張って縫ったんだぞ?」
 「え? 親分が縫ったのかい?」
 「おうっ♪」

ナミには“俺が自分で履く”って言っておすわったんで、
じゃあ縫い目に気を遣うとか、
そんな丁寧な仕事じゃなくてもいいだろうけど、
その分丈夫な出来にしなきゃあねって。
二重に“かえしぬい”ってのをしてあんぞ、
布も上等の木綿をおごったぞ。
どうだ参ったかと低いお鼻を高々と、大威張りで言う親分さんには、

 「…ああ。参ったなこりゃ。」

ああどうしようか。
笑い飛ばせるネタのはずが、嬉しいって方向での笑いようしか出て来ない。
第一、肌着を贈るのって特別な相手だって認めた証左じゃあなかったか?
やべ、俺、何か凄げぇ やらしい笑い方になってやしねぇだろうな。

そろそろ自覚したってよかろうに、何でだろと困ってばかりいるお坊様。
そして、そんなお坊様を
えへへぇvvと、やはり嬉しそうに見上げてる親分さんとあって。
じきに足音が聞こえそうな冬が来ても、
今年は暖かく過ごせそうですね。お二人さんvv



  HAPPY BIRTHDAY! ZORO!






  おまけ


「ところで親分。」
「なんだ?」
「この、包んである紙に“お布施”って書いてあったのはなんでだ?」
「ああ、だってサンジが“坊さんに何かやる時はそう書くんだぞ”って。」
「……それって。」
「あ、や、この包み見てとか言った訳じゃなくて。/////////

何かの拍子にそんな言って教えてくれたから…と。
懸命になっての真っ赤になった可愛い親分さんも、
さすがにこういうあらたまった、あらたまってるかな?
わざわざの贈り物をする気だってところを嗅ぎつけられた訳じゃないぞと、
真っ赤になって言ったので、
そこはやっぱり隠しときたいという行動は取ってたらしくって。
とはいえ、
この、作為とか演技とか誤魔化しとかには縁が無さ過ぎよう親分が相手では、
その気になってカマかけりゃあ、筒抜けも同然かと、
そこはお坊様の方でもすぐさま理解出来ること。
(苦笑)

 “油断も隙もねぇな、あの板前まゆげ。”

ど、どうか穏便にね?






  〜 ひとまず しまい 〜  07.11.10.


  *ゾロ誕最初のお話が“ふ○どし”ネタってのもどうかですが。(苦笑)
   今年も何とか当日前に間に合ったのでホッとしております。
   宜しかったらお持ちくださいませですvv
   昨年とは筆者の事情も微妙に違うわ、
   連載途中のを2つも抱えてるわ…ではございますが、
   怠け心に鞭打っての月末まで、
   何とか頑張りたいと思いますので、どかよろしくです。

   それにしても、シリーズものがまた増えてる訳で。
   知らぬうちのこと、そう思えばゾロルの魅力って凄い凄いvv

めーるふぉーむvv めるふぉ 置きましたvv

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